訳書『大恐慌論』を手にする中村亨教授と原著「THE GREAT DEPRESSION」を手にする三宅敦史教授
レポート
- 2022.10.19
- REPORT
経済学部の中村教授と三宅教授が翻訳した『大恐慌論』の著者、バーナンキ氏がノーベル経済学賞を受賞しました
経済学部の中村亨教授と三宅敦史教授が翻訳した『大恐慌論』の著者、ベン・バーナンキ氏が2022年度のノーベル経済学賞を受賞しました。翻訳者の2人から喜びのコメントが届きました。
報道によると、スウェーデン王立科学アカデミーは10月10日、ベン・バーナンキ氏ら3人に「ノーベル経済学賞」を授与すると発表しました。バーナンキ氏は米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)の元議長で、今回の受賞は金融危機下における銀行の役割に関する研究への功績が評価されたものだとされます。
【中村亨教授コメント】
私が学生の時、大恐慌論として最も権威があった説は、ミルトン・フリードマンによるもので、「恐慌は民間企業の失敗ではなく、むしろ政府の失敗によってもたらされた」と主張していました。しかし、バーナンキ氏は『大恐慌論』でフリードマンの誤りを明らかにしたのです。
歴史の偶然でしょうか、このフリードマンの仮説が誤りであり、今回ノーベル経済学賞を受賞した3人の研究から得られる政策的インプリケーションが有効であることを示す自然実験が現出しました。それがあのリーマンショック時の金融政策です。しかも、その時のFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、大恐慌分析の専門家でもあるバーナンキ氏だったのです。彼等3人の研究から導かれる政策、すなわち、自己実現的な金融パニックを回避するための、預金保険や中央銀行による経営難の銀行への融資などのバックストップ(金融強化策)がリーマンショックを大恐慌に発展させなかったのです。さらに、フリードマンが主張した(マネタリーベースを増大させて貨幣供給の増大をはかり、景気を回復させる)金融政策は、データで確認する限り機能していなかったのです。
経済学史的にも大いなる貢献をしたバーナンキ氏へのノーベル経済学賞の受賞は、翻訳者の我々にとって喜ばしいことではありますが、ある意味当然であったと思っています。
【三宅敦史教授コメント】
現代のマクロ経済学は大恐慌の研究がその嚆矢であり、バーナンキ氏の言葉を借りれば「大恐慌を理解することは、マクロ経済学の聖杯(『大恐慌論』第1章)」であると言えます。バーナンキ氏がFRB議長時代に経験したリーマンショックにおいては、大恐慌研究によって得られた知見をもとに金融緩和政策を実施し、アメリカ経済を危機から救うことに成功しました。日本においても経済学の研究が経済政策にこれまで以上に有効活用されることを期待します。
中村教授へのインタビュー記事(2013年)も併せてお読みください。
大和印刷「BOOKSCAN」サイトに掲載されている中村教授への「著者インタビュー」の記事(2013年)はこちら
【神戸学院大学経済学翻訳叢書】
ベン・S・バーナンキ『大恐慌論』(日本経済新聞出版社)2013.03
訳者:栗原 潤 / 中村 亨 / 三宅 敦史